東京国税局から東京地方酒類審議会委員を委託されたのは、15年ほど前のことだった。特級、一級の清酒を利き酒審査して、その適否を判定する仕事だ。
大ぶりの湯飲み茶碗は白地に紺の蛇の目模様。まず白地で酒の色を見る。紺と白の境目では澄み具合を確かめる。次に香りを嗅いでから口に含んで味をみる。舌の上で酒を転がすようにしながら、唇の隙間から空気を吸い込んで酒と混ぜて香りと味の変化を調べて吐き出す。香りと味の調和も大切である。もちろん、目隠しテストで銘柄はわからない。多いときには300種を超え、大変な仕事だったが、勉強になった。
自分が「ダメな酒」と判定した酒が落ちたときは宝くじに当選したような気になったし、「古い木の机の引き出しのような匂い」と表現して、「それはひね香といいます」と教えられたこともある。
日本酒の表現は「端麗」「馥郁」「芳醇」といった決まり文句だが、ワインとなると多彩。「湿った土の匂い」「ミネラルの味」など具体例をあげるのは面白い。ワインのテイスティングも日本酒とほぼ同じで、色を見て香りを嗅ぐ。口に含んで空気も含ませながら香りと味を確かめる。
もっとも、ワインの場合はグラスに注いだら、そのまま香りを嗅ぎ、次にグラスを回してワインを空気に触れさせる。スワーリングと呼ぶ。最近のワインブーム、ワインバーで俄ワイン通がぐるぐるグラスを回しているが、注いだらまず香りを嗅ぎ、次に回して香りの変化を確かめることだ。スワーリングの前の香りはアロマ、あとの香りはブーケと呼んで、微妙に違う。ウイスキー、焼酎、泡盛のテイスティングも経験してきたが、香りと味で決めるのはいずれも同じである。
(岸朝子) |