「灯りをつけましょぼんぼりに……」。雛祭りに歌を口ずさむと幼い日を懐かしく思い出すが、二番は、白酒で顔を赤く染めた右大臣がでてくるように、雛祭りに白酒は欠かせない。
白酒は、蒸した餅米に米麹、焼酎を混ぜ、デンプン質を麹の力で糖に変えたあと、搾って濾したもので、特有の粘りと甘みがある。アルコールは8.5%でワインよりも少ないが、かすかな酸味と甘さで飲み口がよいため、飲み過ぎるきらいがある。
めったにお酒を口にしなかった女性も子供も、白酒は飲めるとあって、雛祭りに遊びに来て、酔っぱらって我が家に泊まっていった友人もいた。
似た酒に甘酒がある。ご飯やおかゆに米麹を混ぜて保温し、デンプンを糖化させたもの。アルコールはほとんど含まないが、ガチガチふるえる寒さの中で飲むと、体の芯から温まって幸せな気分になる。砂糖が配給制だった戦時中は、わが家でも手作りした。保温瓶などなかったから、鍋を毛布で巻いたり、湯たんぽを入れたりしたものだ。
新酒の季節には、酒の搾りかすを板状にした酒かすが、酒屋で売り出される。砂糖と水を加えて煮とかし、しょうがの搾り汁を入れて、インスタント甘酒を作って飲む。こちらはアルコール分があるから、ちょっとした風邪は吹き飛んでしまう。
白酒の代わりに甘酒もよいが、今風にするなら、ロゼワインや白ワインを冷やしてグラスに注ぎ、桃の花を浮かべて飲むのもおしゃれだと思う。
『日本歳時記』に「三日桃花を取て酒にひたし、これを飲めば病を除き、顔色をうるほすとなん」とあるように、桃の花を酒に浮かべて飲む風習は、平安の昔からあったようだ。
(岸朝子) |