• 消えゆく「酒造り唄」を記録に (1999/10/25)

去る10月1日、日本酒造組合中央会主催の「日本酒大賞」の授与式に出席した。毎年、日本酒の普及に功績があった人を表彰するものだ。ことし栄えある大賞を授与されたのは京都の阪田美枝(さかたよしえ)さんで、受賞の対象は、『定本・日本の酒造り唄』。4年間かけて日本中の酒蔵を回り、400名以上の杜氏やその関係者から取材して1冊の本とCDにまとめられた、地道な活動に対するものだ。

酒造り唄といってもピンと来ない若者がふえている現代にあって、日本古来の伝統を守る酒蔵の人々、杜氏と呼ばれる人々が唄い継いできた唄である。

日本酒の歴史は古いが、杜氏という技能集団が生まれて本格的な白米で仕込む寒造りが登場したのは、江戸時代のこと。収穫を終えて農閑期に入った地方の人たちが、各地の酒蔵に働きに出かけた。その長が杜氏で、長年の経験とカンで、よい酒をつくり出し、杜氏が働くと酒の味が変わるとさえいわれる。

酒造り唄は作業工程の時計代わりに唄われたもので、精米、洗米、もろみ仕込みなどきびしい作業の中で唄われていたが、第二次世界大戦以後酒造業界の機械化、合理化が進むにつれて唄われることが少なくなったと聞く。

「この唄を何回繰り返したらこの作業は終わり」と、工程に応じて唄われると同時に、夜中まで続く仕事の眠気ざましであり、また共同作業をするうえで連帯感を強めるものでもあった。同じ酒造り唄でも、南部、信濃、越後、能登から丹波、広島、九州など地域によって歌詞や節回しが違うというのも面白い。

阪田さんは日本の伝統産業の衰退を危惧し、後世に伝えるためによい仕事をされた。秋の夜長、酒造り唄のCDを聴きながらひとり静かに酒を味わった。

(岸朝子)