「親の意見と冷や酒はあとから効く」と昔からいわれていたが、冷や酒といっても常温の酒を指し、冷蔵庫で冷やしたり、流通もクール宅急便でといった冷酒は、ここ10年くらいの現象である。
江戸っ子気質というか、東京のそば屋などでは常温の酒しか出さない店も多い。燗をつけるのは酔いを早くするためともいうが、ぬる燗、熱燗で酒の味が変わり、一般に甘みがかってくるようだ。
酒の表示で、原酒は水をいっさい加えず、アルコール濃度は18〜20度。古酒は3年以上熟成したもので、10年以上おいたものは秘蔵酒と呼ばれる。私が飲んだ経験では、紹興酒に似た色と味で、どうせなら紹興酒の10年ものを飲んだほうが、という印象であった。
日本酒の広告でよく見かける「山廃モト仕込み」の山廃ということばは、長らく意味不明であった。先日、酒の専門家に聞いたところ、醸造過程で「山卸」を廃したものだという。
酒のもとになるモトをつくるときに醸造用の乳酸菌を使わず、自然に乳酸菌ができるのを待つ場合、桶に蒸し米、水、麹を山状に積み、蔵人たちが大きな櫂を使ってつぶしていく作業(山卸)をせず、蒸し米が麹の酵素で自然に溶けるのを待つ。山卸を行ってつくる酒は「生モト仕込み」と表示される。いずれにしても既成のの菌を使わず、ゆっくりと乳酸菌を増殖させるということで、酒の味に個性を生み出すものだ。
先日、熊本県に出張した折、香露という酒に出会った。焼酎の国熊本と思っていただけに、すっきりした味わいに感激した。北海道の酒も注目されてきた。長く厳しい冬に、ゆっくり熟成された酒は、辛口でさっぱりしており冷酒に向く。北から南まで、日本には隠れた名酒が多い。
(岸朝子) |