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料理は愛。人を幸せにする

2001年1月10日(水) 共同通信社配信

 先日、新聞紙上でスウェーデンの老夫婦の話を読んだ。先進国の中でも最も福祉が充実している国であるが、子どもたちが出稼ぎに出かけて二人は年金暮らし。その年金だけでは食費も十分でなく、ペットフードを食べているという。なんとも暗い話である。

 急速にやってくる高齢化社会を前にして、日本の場合はどうなるか。家族制度が崩壊して子どもたちは、自分たちの生活のみを考えがちな現代であるが、私はもし自分が元気で人のためになにかできる老後であったら、おいしい料理を作って人を喜ばせたいと思う。

 これも先日、テレビでみた話だが、奥さんが病に倒れたとき、ご主人は会社をやめて料理を覚え、食事作りに専念した。看病のかいなく奥さんに先立たれた後も料理を作り続けていたが、自分一人のために作る料理ではもの足りなく、ご近所の人たちに届けて喜ばれているということだ。

 料理とは不思議なもの。人を喜ばせたいという気持ちが味をよくする。「料理は愛。人を幸せにするもの」とフランス料理の神様とも呼ばれるジョエル・ロブションは言っている。結婚が決まったらがぜん料理の腕が上がると料理学校の校長さんも話していた。

 中国料理店「富徳」の周富徳オーナーシェフに「あなたの料理哲学は?」と聞いたところ、「そりゃあ、おいしいものを作って客を喜ばすことだよ。おいしかった、ごちそうさま、とお礼を言われるうえにお金を払ってくれる」と答えた。

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(イラスト 阿部早子)

 料理人としては当たり前のことであろうが、家庭の主婦も基本は同じ。本来ならば家族のし好や健康状態をよく知っている主婦が作る料理が、いちばんおいしいはずだと主婦歴50数年の私は自負している。

 しかし、近ごろは「料理を作らない女性がカッコいい」といった風潮も生まれている。本当は女性だけでなく、男性も「なにをどうやって食べたらよいか」という基本と、料理のテクニックを覚えるべきだ。私の恩師で女子栄養大学の創立者である香川綾さんは98歳で亡くなったが、「男も女もなく、それが人間の資格だよ」と話していた。

 おいしい料理を作るテクニックも健康を維持して最後まで自立した人間であるための心得だと思う。自分で考えて自分で作れば、なにも猫や犬のエサをたべなくても人間としての尊厳を全うできるのではなかろうか。

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