寒さが身にしみる季節は、湯気もごちそうのひとつ。「湯気の向こうに幸せが見える」とまで言った人がいるが、婦人誌の特集も居酒屋の献立もなべ、なべ、なべとなる。
なべの材料はなんでもよいが、汁は大きく二つに分けられる。すき焼きや寄せなべのように調味して煮るものと、水炊きやしゃぶしゃぶのように味をつけずに煮て、ポン酢と薬味で食べるものだ。最近の傾向は味つけしていないものに人気がある。
なべがおすすめの点は、健康長寿に必要な「四つの栄養群」の第二群である肉や魚、豆腐がたっぷりとれる点。ほかに野菜やキノコ、しらたきもたくさんとれるので、栄養のバランスもよい。
肉や魚、豆腐は毎日とりたいタンパク質源、血や肉をつくるうえで欠かせないもので、魚1切れ、肉1切れ、豆腐1/6丁とみそ大さじ半杯がとりたい目安である。魚も肉も1切れ50グラムくらい、豆腐のかわりに納豆なら30グラムほどをとればよい。
わが家でなべといえば97歳で天寿を全うした祖父の「とんちり」が定番だ。
40年も前の話。ひとり暮らしの祖父は酒と水を半々に合わせて煮立て、豚肉の薄切りとホウレンソウを煮ては大根おろしとポン酢で食べていた。豚肉の脂肪のせいか、ホウレンソウのあくがまったく感じられず、いくらでも食べられる。
これは現在、ひとり暮らしの私の孫にまで伝わっている。彼は豆腐やネギ、エノキやシメジなどのキノコにしらたきも加えて「武蔵野なべ」と命名している。
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