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「おふくろの味は袋の味」

1996/09/16

 昭和40年ごろ、私が『栄養と料理』の編集長時代は“おふくろの味”が人気だった。里芋の煮ころがし、肉じゃが、サバのみそ煮、きんぴらごぼうなど、昔から日本の食卓に終始並んでいたものだ。
 第二次世界大戦後はスパゲティやハンバーグ、サラダなどが家庭に広く浸透していった。

 昭和50年代には、友人のキッコーマンの吉田節夫さんが「おふくろの味はオカアサンヤスメ」と中央公論誌上に発表し、話題を呼んだ。つまり、当時のお母さんたちの得意料理はオムレツ、カレー、サンドイッチ、焼きそば、スパゲティということだ。

 そして現在、『料理の鉄人』の解説で有名な服部幸應さんは、「おふくろの味は袋の味」という。

 袋入りの調理済み食品で食事を済ませる人が増え、袋から出して温めるだけだという意味で、家庭料理の衰退を嘆いておられる。
確かに、昭和40年代は小学校の給食担当者にハンバーグやスパゲティに作り方を問い合わせる母親が多く、学校で料理講習会を開いたりしていた。

 ところが、最近の質問は「学校のハンバーグはどこのメーカーですか」という電話。給食のおばさんたちが一生懸命手作りにしているからこそ、既製の味よりおいしいと、子どもの敏感な舌は判断しているのに、いまどきのお母さんには通じないのである。

 話は変わるが、沖縄料理のルーツは宮廷料理と庶民料理の二つという。私が子どものころ、祖母から“チージ(辻)のジュリ(娼妓)は料理上手だった”と聞いた。

 客を引き止めるために自分の部屋でおいしい料理を作って食べさせたというのだ。庶民料理の中にはチージ料理も存在しているのだろう。チージに居続けて帰ってこない旦那の心を引き戻すために、沖縄の主婦たちはおいしい料理を作るよう心掛けた。だからこそ、沖縄女性は料理上手と言われるのかもしれない。

 しかし、どこにでも売っている袋の味が家庭の味となれば、旦那だけでなく、子どもたちまでも帰ってこなくなる日が来るかもしれない。

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