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ティーアンダ

『日曜討論』 2001415

 サミット開催に続いてNHKの朝の連続ドラマ「ちゅらさん」が4月から始まり、沖縄に対する関心が高まってきたのはうれしいことだ。私も「沖縄に連れていって!」と多くの人にせがまれている。「岸さんと一緒だったらおいしいものが食べられる」というのが、その理由だが、これがなかなかむつかしい。味覚は人それぞれ違う。生まれ育った家庭の味、地域の味が大きく影響する。しょうゆひとつとっても、関東は濃い口、関西は薄口だし、中間の愛知、三重、岐阜あたりは大豆だけでつくる溜りじょうゆを使うといったぐあいだ。

 私は子どものころから沖縄料理を食べて育っているため、沖縄料理に抵抗はないが本土の人たちは好き嫌いの2派に分かれる。嫌いという人の理由は「脂っこい」、「しつっこい」というのだが、これは本土と沖縄の食文化の違いである。現在の日本はお金さえ出せば世界中の料理が食べられるが、肉を食べるようになったのは明治時代の文明開化以降だ。それまでは殺生を禁じる仏教の影響で牛や豚の肉を食べる習慣がなかった。

 一方、沖縄は琉球王朝時代から中国影響で豚を食べる歴史は長い。沖縄料理は「豚に始まって豚に終わる」といわれるほど、豚肉をよく使う。皮も腸も血もすべてを使い尽す智恵と技術を持っている。また豚の脂身はいりつけて脂肪、ラードをとり瓶に蓄えた。野菜でも豆腐でも脂でいためる歴史がある。本土の場合、油を多く使うようになったのも戦後であるから「脂っこい」という批判が出るのも当然だ。しかし、沖縄の豚料理は塊肉をゆでてから料理するため、脂っ気は大部除かれているはずだ。「しつっこい」というのは、塩味が濃いのではなく、だしが濃いという意味だろう。ラフテーを煮るのにも削りがつおを使うくらいだ。「アジクーター」、つまり濃い味が好き。油を使ったり、濃いだしを使ったりするため、沖縄料理の味つけそのものは薄い。食塩摂取量が少ない、ということは、高血圧や心臓病を防ぐうえで役立ち、日本一長寿県を保つ原因になっている。

 先日、料理研究家や栄養士など食に関する仕事をしている人たちを案内して沖縄を訪れたときのこと、「沖縄舞踊と沖縄料理」が謳い文句の店で食事をした。観光客相手の店らしく満席であった。踊りは1部、2部と分かれて8曲ほどあり、沖縄舞踊のエッセンスを垣間見ることができたが、料理はひどかった。クーブガーイリチーもアンダンスも私のつくる味のほうが上等。「食事代の半分は舞踊の見物代と思って勘弁して」と謝ったが、「沖縄料理はおいしくない」という本土の人たちの言葉の意味がわかった気がする。愛がない料理なのだ。料理は心。人を喜ばせたいと思う気持ちが、一口のアンダンスにも表現されるはずだ。食習慣が違うとはいっても、しっかりした味ならおいしいはずだ。観光客はどうせ1回きりの客だからと軽く考えたら、大間違いである。

 私はこの経験から「どこの店がいいか」と聞かれたら、公設市場の食堂や町の食堂をすすめることにした。沖縄の人たちが日常食べている料理で、心がこもった「ティーアンダ」の味だからだ。食は一期一会のもの、そばひとつにしても沖縄の心を伝えて欲しいと願う。観光立県を目指すなら、リピートしたい味でもてなして欲しいものだ。

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