ryukyu.JPG (3519 バイト)
食生活指針

『日曜討論』 2001513

 4月から始まったNHKの朝ドラ「ちゅらさん」は、舞台が沖縄から東京へと移ったが、話の展開にスピード感があって楽しい。沖縄では「ウチナーヤマトゥグチがおかしいよ」との声もあると聞くが、私にとっては懐かしく耳に心地よい。作者の岡田恵和さんは、お母さまが沖縄出身で母方の祖父母と同居していたこともあって、沖縄の家庭の有り様がよく伝わってくる。「沖縄の男の人ってほんとうにあんなに働かないの?」などと友達に聞かれたが、堺正章さん扮する父親もいざというときは、家長として決断を下すし、家族もそれに従う。よく働いて家を支えているのは母親だが、あくまでも男を立てている。

 さらに重要なのがオバアだ。「ナビィの恋」を見て以来、私は平良とみさんのファンである。素晴らしい。家長でもある息子もこのオバアには頭が上がらない。昨年、平凡社刊『沖縄のうまいもの』で長寿世界一の大宜味村の照屋林三村長と対談した折、「村のオバアたちは、だれも子どもたちの扶養家族になっていると思っていない。威張っているさ」。年寄りを敬い大切にするから、年寄りは生きがいを感じる。これが長寿の秘けつでもあるようだ。少子高齢化社会の到来で21世紀は「大変だ」と政府もマスコミも騒ぎたてているが、年寄りの健康で自立、つまり身の回りのことは自分でできて、天寿を全うできる世の中であれば明るい。そのためにも、沖縄の敬老の精神をヤマトゥンチュも学んでほしい。

 もうひとつ「ちゅらさん」では朝夕、家族そろって食事をする光景が多い。戦後の核家族化で都会では3所帯同居が珍しく、同居していても食事は別々という家もあるし、ひどい例では、子どもは親と食べるのをいやがり、自分の部屋で一人で食べる。つまり孤食を好むと聞く。

 そのようなことを許す親も親だと私は憤慨するが、昨年3月に発表された「食生活指針」では、10項目のトップに「食事を楽しみましょう」とある。家族もしくは友人でもよいから食べる楽しみを分けあおうというもので、次は「一日の食事のリズムから健やかな生活とリズム」とある。朝ご飯抜きは若い男女だけでなく、小中学生から保育園に通う子どもたちにも見られる時代である。3番目が「主食、主菜、副菜を基本に食事のバランスを」だ。そのあと7項目あるが私からみれば、ごく当たり前のことで「なにをいまさら」の感がある。しかし農水省、厚生省、文部省が各界の学者や有識者を集め、時間とお金をかけて検討して決定した指針であると思う。このように言挙げしなくてはならないほど、日本人の食生活がひどいということだ。

 その点「ちゅらさん」の家族はクーブグァイリチーやゴーヤーチャンブルーなどをおかずに、にぎやかに食事を楽しんでいる。あるときはゴーヤーマンの製作費を集金しに来た人にまで「独身でしょ、食べていきなさい」と食事をさせている。私は母方の祖母のことばを思い出した。「おなかをすかせた人が来るかも知れないから、ご飯はいつも余計に炊いておきなさい」と。

 また、食生活指針では「食文化や地域の産物を生かす」こともすすれられている。ロサンゼルスの県人の集まりで沖縄料理がしっかり伝承されていると安心していたら、那覇などの都市では学校給食に郷土料理を出すと残す子が多いと聞く。家庭でつくらないのであろうか。家庭の食文化は地域の食文化、ひいては国の食文化となる。食べることは、からだの栄養だけではなく、心の栄養にもなると私は信じている。ヤマトゥでは見かけることが少なくなった家族で囲む食卓の楽しさも、ヤマトゥに伝えてほしいメッセージだ。

[BACK]