o-umai.JPG (3982 バイト)

長寿村の「ここちよい暮らし」 (3)

 岸 朝子  

薬食同源の食生活

さて、沖縄が長寿世界一である理由はいろいろありますが、いちばん大きいのは食生活です。

まず、良質なたんぱく質の摂取量が多いこと。本土では仏教の影響で明治時代の文明開化まで肉食は禁じられていましたが、沖縄では琉球王朝のころから豚肉を食べていました。那覇の市場のおばあさんが「豚は鳴き声以外は全部食べるよ」というように、頭から足の先、血まで無駄なく使いきります。周囲が海ですから魚や貝も豊富なうえ、昔から豆腐もよく食べます。沖縄料理を代表するチャンプルーには必ずといってよいほど豆腐が入りますし、ゆし豆腐と呼ぶ、ゆらゆらとした柔らかな豆腐もあります。次はミネラル、ビタミンの補給源として欠かせない野菜、特に緑黄色野菜や芋、海草をふんだんに食べること。市場に並んでいる野菜を見ればわかりますが、ヨモギやニガナ、ウイキョウなど漢方薬の素材となるものがたくさんあります。また、田畑が少ないこともあって、長い間さつま芋を主食にしてきた習慣で、芋もよく食べます。最近は芯まで赤い紅芋が人気で、アイスクリームやケーキにもなっています。海草はモズク、アーサなど、海辺で手近にとれます。それから昆布。琉球王朝時代、中国へ送られる昆布の中継地であったため、今でもその消費量は日本で一番といわれるほどで、汁物や煮物のほか炒め煮などにして、日常のおかずに欠かせません。緑黄色野菜や芋、海草は食物繊維が豊富ですから、大腸がんを予防したり余分な塩分やコレステロールを排泄する作用もあります。特に海草のぬめり成分であるアルギン酸が有効だといわれています。

 

料理法の特長は油を使うこと。これも中国の影響で炒めたり揚げたりする料理が多いため、香ばしさやこくが加わるので塩味が薄くてすみます。沖縄にはアジクーターという言葉があり、これはだしの濃い味を指します。たとえば豚肉を煮る際にも削りかつおを使います。だしが濃いので塩味は薄めでよいのです。日本人の食塩摂取量の目標値は1日10グラムですが、全国でこの目標値以下というのは沖縄だけ。1日9グラムの摂取量です。

高齢者が好んで食べるものにティビチ(豚足)があります。これはコラーゲンというゼラチン質ですし、これに昆布や野菜など取り合わせた煮物や汁物は栄養バランス満点とえいるでしょう。「沖縄では豚肉をよく食べるのに、コレステロールの心配はないのか」とよく聞かれますが、豚肉は煮物でも汁物でも塊のまま柔らかくなるまでゆでて使うため、余分な脂肪は除かれます。と同時に野菜や芋、海草などといっしょに食べることで、コレステロールなども排泄されるわけです。

沖縄特産の黒砂糖はお年寄りたちのお茶請けになりますが、ごま菓子やチンピン(沖縄のお焼き)、サーターアンダーギー(沖縄ドーナツ)などの甘みとしても使います。天然のミネラル、ビタミンが多いといわれてきましたが、最近では血清中のコレステロールや中性脂肪の低下作用があるという研究報告もあって、これも長寿に一役買っているようです。

それから、沖縄は果物の宝庫です。タンカンやパパイヤ、バナナ、パイナップル、マンゴーなどが実ります。シークヮーサー(ヒラミレモン)は3月ごろに花をつけ、初夏には小さな実となります。徳島特産のスダチに似ていて、幼果は酸味が強く、酢やレモンの代わりに使ったり、ジュースにして飲みます。冬には甘みが増してそのまま食べられます。ビタミンCが豊富で発ガン抑制作用があり、慢性リウマチの予防や治療にも効用があると聞きます。

長寿村・大宜味村はシークヮーサーの里とも呼ばれています。訪れた2月、ひっそりとした家々の庭にも、黄色に熟したシークヮーサーがたわわに実っていました。

 次のページへ  前のページへ